【犬猫】骨折と症例紹介「猫の頸腓骨粉砕骨折のプレート固定」

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は整形外科疾患である「骨折」について説明し、ネコの頸腓骨粉砕骨折をプレート内固定した症例をご紹介します。

 

■骨折とは?


骨折は様々な部位で起こり、原因も様々です。

最も多いのが外傷性骨折で、交通事故や落下など過剰な外力が加わることにより発生します。

 

近年、小型犬や猫を室内で飼うことが増えたため、外での交通事故による骨折は減り、家庭内での抱っこ・ソファーや椅子・階段からの落下、スチールラックなどの隙間に足先が挟まった状態で落ちた、居るとは知らずに上から乗っかってしまった、などによる骨折の方が多く見られます。

 

<好発種・傾向>

骨折は外傷なのでさまざまな犬種に発生しますが、特に発生の多い犬の橈尺骨骨折や上腕骨遠位骨折は、トイ・プードル、ポメラニアン、チワワ、ヨークシャー・テリアなどのトイ犬種や、活動性が高いのに骨が細長くて薄いイタリアン・グレーハウンド、ミニチュア・ピンシャーなどに多い傾向がみられます。

猫は少々高いところからの飛び降りや落下では普通は骨折せず、マンションの3-5階から落ちても骨折はせずに横隔膜ヘルニアなど軟部組織損傷のみ起こした猫も数等いました。特別な好発猫種は無く、室内ではスチールラックなどの隙間に足を突っ込んでしまいパニックに陥って暴れたり倒れたりして骨折することが多く、屋外ではやはり交通事故による骨盤や後肢の骨折が多いです。

 

 

■骨折の症状


骨折部位や程度により様々ですが、四肢の完全骨折であれば、鳴き叫ぶなど強い痛みを訴え、顕著な跛行(歩様異常)や挙上を呈します。折れて尖った骨が皮膚を突き破って飛び出す「開放骨折」となり、出血することもあります。骨盤や脊椎の骨折では動けなくなりうずくまることが多いです。

 

いずれの部位でも、患部を動かしたり圧迫すると、猛烈な痛みのために飼い主であろうと咬みに来ることもあるので要注意です。カラーやタオルなどで顔を確保したあとに、患部を硬めの添え物とタオルなどで軽く巻いて揺れ動かないようにして、整形外科のできる動物病院に向かうと良いでしょう。

 

 

■骨折の診断


骨折が疑われる部位のX-ray検査(レントゲン)を、1方向だけでなく、複数方向から撮影することで、正確な診断に繋がります。健常側の正常写真が骨折を元の形に戻す上で重要なので、比較検討できるように、当院では必ず健常側も撮影します。

また、痛がる部位だけに目が向きがちですが、骨折は多部位で起こることもあるため、患部だけでなく、離れた部位も確認すべく全身の確認を行います。

 

特に交通事故や落下などでは、全身の骨折・ヒビ、擦過傷・裂傷、頭蓋内・胸腔内・腹腔内の臓器の損傷や出血の有無を確認します。骨盤骨折では膀胱や尿道を損傷することもあるため、尿路系のチェックも重要で、見逃すと命に関わります。

 

 

■骨折の治療


骨の整復と固定は、可能ならば極力早く実施すべきです。処置が遅れると、筋肉の拘縮(関節が硬くなりその結果関節の動きが制限された状態)や軟部組織の腫れにより整復が困難になります。

 

骨折初期に生じる治癒力を、そのまま骨癒合に用いたいのですが、例えば外固定で2週間様子を見た上でうまく行かないから手術となると、せっかく出てきた軟骨仮骨を一度崩したり除去せねばならず、治癒が遅れたり、癒合不全になることもあります。

 

特に小型犬の手首上の橈尺骨骨折は、『獣医師泣かせの骨折』と言われるほど、幅4-5mmと細く・厚み2-4mmと薄い骨をきれいに合わせてプレートとスクリューで固定し、栄養供給も少ない部位で癒合に導かねばならない難しい手術となり、獣医師の実力差が出やすい部位です。経験・技術の低い手術では癒合不全・骨吸収などが起こりやすく、高度な手術が求められる部位です。

 

・外固定(非観血的整復)

ギプス包帯や接合副子(添え物)などにより骨折部位を固定する方法です。骨折片が離れておらず、若齢の若木骨折など早期に治癒が認められる可能性がある症例に適応となります。大腿骨・上腕骨の骨折には不適応で、主に橈尺骨の骨折で用いられます。

絶対安静・不動化を守れるヒトでは比較的多く適応されますが、犬や猫では管理が難しく、骨折面が完全にずれていないからと外固定で様子を見るうちに、暴れたりしてズレが大きくなり、癒合不全を起こしたり、変形癒合して手根先が曲がって癒合してしまうことも残念ながら多々ありますので、完全な骨折では推奨されません。当院では、手術までの開放化や腫れを防ぐ目的で実施します。

 

 

・外科手術(観血的整復)

1.プレート固定

プレート固定は、ずれた骨片同士を元の位置に整復し、金属のプレートとネジで固定する方法です。適切に設置すれば再建した骨折部位の強固な安定性が得られます。ほとんどの長管骨(上腕骨・橈尺骨・大腿骨・脛骨など)骨折に適応します。

近年はロッキングプレート&スクリューの仕組みを用いたものが各種発売され、適応範囲が格段に増えました。

 

利点 欠点
◦強固な固定

◦適応範囲が広い

◦プレートは皮膚の下に埋まっているので、術後の管理にあまり手間がかからない

◦外固定や創外固定に比べると、組織への侵襲度が高い

◦きれいに治すには高度な技術と専門知識が必要

◦特にチタン製では材料代が高い

◦プレートを除去する時は、全身麻酔をかけなければならない

 

 

2.創外固定

金属製のピンやクランプで皮膚の外から骨折部位を固定する方法です。骨が外に出ている開放骨折や、複雑骨折、傷口が化膿している場合に適応します。

 

利点 欠点
◦低侵襲

◦術後に強度の調節が可能

◦犬や猫が許容できるか不明、不快感が高い

◦ピン刺入部の感染の可能性

◦神経・血管・筋・腱・靭帯の損傷の可能性

◦術後の管理・通院がこまめに必要

◦ピンの抜去が必要

 

 

3.クロスピン法

クロスピン法では、ずれた骨片同士を元の位置に整復し、交差するようにピンを刺して固定します。若齢の症例が起こす橈骨遠位や頸骨近位の成長板骨折などに適応されます。関節を動かすとピンが皮膚に接触して違和感を引き起こすことが多いため、骨が癒合したらピンを抜去します。

 

 

4. インターロッキングネイル

骨折した骨の髄内に挿入した太いネイルと言われる金属のネジ穴部に、骨の外からネジを挿入してロックする方法です。骨の内部に軸ができるので、強度や安定性は高いですが、ほぼ均一な形の骨を持つ人間と異なり、特に犬では犬種による骨の形が多岐にわたり、なかなかピッタリと適合する場合が少なく、骨髄への侵襲度も高いので、各種ロッキングプレートが開発されてからは、当院では、めっきり出番が減りました。

 

 

ここからは実際の手術症例をご紹介します。

手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。

■骨折の手術症例(脛腓骨粉砕骨折プレート内固定)


今回は猫ちゃんの脛腓骨粉砕骨折のプレート内固定の手術症例を紹介します。

 

猫ちゃんの骨折は交通事故が多いですが、お家の中でも起きることがあります。

家具など、どこかに足が引っかかって無理やり外そうとして骨折してしまうこともあります。

 

まずはレントゲン写真から。

ぽっきりと折れてしまっているのがわかります。折れて尖った骨が皮膚に当たっており、開放骨折になる危険性が高い状態ですので、当日すぐに緊急オペとなりました。

猫 脛腓骨粉砕骨折 レントゲン

 

毛刈り・消毒・滅菌フィルム装着後、腫れ上がった患部を切開すると、皮下は内出血で血の海になっていました。

動脈、静脈、神経を誤って傷つけないように注意しながら骨にアプローチしていきます。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術1

 

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術2

 

骨折部位の全貌です。

生物学的癒合を重視して、粉砕骨折部を極力触らず、近位と遠位のみを開創してプレートを装着する方法もありますが、

当院では、整復可能な骨折は極力元の形に整復したほうが癒合や機能回復も早いと考えており、

バラバラに離れている骨片をまとめていきます。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術3

 

ラグスクリュー法という術式を使い、ネジを打ち込んで骨を一体化させていきます。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術4 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術5 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術6

 

形を整えて、一本化した骨にプレートを取り付けていきます。

プレートと骨を固定するために打ち込むスクリューは、骨の太さに応じて、変えています。

足首の骨は細いため、細いスクリューです。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術7 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術8

 

医原性骨折を起こさないように、骨幅の極力中央にネジを打ち込みます。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術9 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術10

 

見事に一本の元の骨の形に整復できましたので、

吸収糸で皮下を縫合し、海綿骨移植を行い、局所に痛み止めも追加して、手術終了です。

猫 脛腓骨粉砕骨折 手術11 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術12 猫 脛腓骨粉砕骨折 手術13

 

術後のレントゲン写真です。

猫 脛腓骨粉砕骨折 術後レントゲン

 

 

■骨折を防ぐためには


骨折の多くは、高いところからの飛び降りやジャンプ後の着地失敗、抱っこ中の転落、交通事故など、大きな外力によって生じます。そのため、以下のことに注意してあげると良いでしょう。

 

・抱っこのしかたの工夫

犬の飛び降りを制御できない小さなお子様にはなるべく抱っこは我慢してもらい、抱っこから地面に下ろす際には犬の足先が地面につくまでは極力 犬の体を支えた状態を保ちます。

 

・生活環境の工夫

フローリングなどの滑りやすい床は少ない方が望ましいです。変更が難しい場合には、よく遊ぶ場所や滑っているのを見かける場所には、滑らないマットなどを敷きつめましょう。

 

・足先のケア

足の裏の毛が伸びて肉球を覆っていると、滑りやすい原因になりますので、定期的に、動物病院などで足の裏の毛を刈ったり、伸びた爪を切ってもらいましょう。

 

 

当院は整形外科において、他院からの依頼症例も多数受けており、2024年3月現在で整形外科の執刀総数が1,797あります。

少しでも気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

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