【犬】股関節脱臼と症例紹介「幼齢犬の股関節脱臼整復術」

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は「股関節脱臼」についてと、「幼齢犬の股関節脱臼整復術」の症例をご紹介します。

 

■股関節脱臼とは?


股関節は、大腿骨頭と呼ばれるボール状の部分が、骨盤にあるお椀型の受け皿(寛骨臼)に収まることで後足のスムーズな動きを支えています。大腿骨頭は大腿骨頭靭帯によって寛骨臼の底につながっていて、関節包という袋に覆われて関節を形成しています。

股関節脱臼は、大腿骨頭と寛骨臼の間の位置関係がずれてしまった状態です。一般的に大腿骨頭靭帯と関節包の両方が損傷しています。関節が機能しなくなり、強い痛みを伴うためうまく歩くことができなくなります。簡易にはめ込むだけでは、一度治ったように見えても再脱臼することも多い病気です。

股関節脱臼では、大腿骨頭が脱臼する方向によって頭背側、尾腹側に分類され、なかでも頭背側脱臼がもっとも多く、全体の70–80%を占めるとされています。

 

■股関節脱臼の原因


・強い衝撃

小型犬の股関節脱臼の多くは外部からの強い衝撃が原因で、高いところからの落下、交通事故などで股関節に強い力が加わることで脱臼が生じます。強い力が加わるため、股関節脱臼以外に骨盤骨折・仙腸関節脱臼を伴うこともあります。

 

・股関節形成不全

股関節形成不全の犬は生まれつき股関節の発達が悪く、股関節のはまりが浅いため脱臼が起こりやすくなります。ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーなどの大型犬は股関節形成不全の好発犬種として挙げられます。

 

・ホルモンの病気

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)や甲状腺機能低下症も原因となることがあります。筋力の低下を引き起こし、関節を支える筋肉が弱ることで関節に緩みが生じて脱臼を起こしやすくなります。そのような症例では肩関節脱臼もよく認められます。

 

 

■股関節脱臼の症状


・強い痛み

・外れた時にギャンと鳴く

・腰のあたりを触ろうとすると嫌がったり、怒る

・外れた足を上げたまま3本足で歩く

・歩くことを嫌がる

 

脱臼を何度も繰り返し慢性化、いわゆる「くせ」になってしまっている場合や、幼少時に外れたまま成長した子は、あまり痛みを示さないこともあり、見た目には上記の症状がない場合があります。

 

 

■股関節脱臼の診断


・視診&触診

大腿骨頭が脱臼した方向によって後肢の挙げ方に違いがあります。

皮膚の上から股関節を触って、脱臼が生じていないか確認します。また、関節の可動域も確認します。

 

 

・レントゲン検査

脱臼の方向や関節の構造、骨折や関節炎の有無も評価します。

 

 

■股関節脱臼の治療


股関節が脱臼するときには、大腿骨頭の靭帯が切れて、関節包が破れていることが多いです。何もしなければ、これらが元通りに再生することはなく、ただ脱臼した股関節を戻せばそれで終了というわけではありません。

股関節脱臼の整復には大きく2種類あります。

 

・非観血的整復

まずは外れた股関節を戻し、その後、包帯を巻いて関節を固定します。手術をすることなく整復できますが、長期間の包帯の維持管理は大変で難しいですし、再発リスクも高いです。

 

・観血的整復

手術で外れた股関節の機能回復を図る治療法です。股関節を元の位置に戻し、破けた関節包を長期型の吸収糸で縫合し、金属インプラントや人工の糸で股関節機能を再建する方法を行います。

 

大腿骨頭切除術という大腿骨の頭部分を切除してしまう方法もありますが、股関節の本来の機能を失うことになりますので、当院では骨頭部の粉砕骨折・大腿骨頭壊死・重度の股関節炎以外では、極力行いません。その子の年齢や生活環境、股関節脱臼の原因など様々な要素を考慮して、適切な治療を行っていきます。

 

ここからは実際の手術症例をご紹介します。

手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。

 

■幼齢犬の股関節脱臼の症例


今回紹介する症例は。生後3.5カ月のトイプードル、体重990gのとっても小さいワンちゃんです。

飼い主様の足元にいたワンちゃんを踏んでしまい、右後ろ脚を痛がったということで他院様に受診されました。他院様から当院に紹介があり、ご来院いただきました。

 

レントゲン検査をしたところ、右股関節の頭背側脱臼でした。

股関節脱臼 術前レントゲン

 

赤ちゃんということで、まだまだ筋肉も柔らかく関節もゆるいので脱臼を戻せるかもしれないと、無麻酔で整復を試みました。しかし、ワンちゃんが痛がったのと、小さいとはいえ骨盤周りの筋肉の力は強く、無麻酔での整復は困難でした。

 

そのため、翌日、絶食してもらい、全身麻酔下での整復を行うことにしました。麻酔下では比較的容易に整復できました。

膝蓋骨脱臼1

大転子の位置が背側に移動

 

膝蓋骨脱臼2

整復して本来の位置に戻ったところ

 

しかし、後ろ足を動かすと、すぐに再脱臼する感触があったため、手術を行うことにしました。股関節にアプローチして、ぐっと押すとすぐに股関節が外れてしまう状態です。

 

膝蓋骨脱臼 手術1

大腿骨頭が寛骨臼(カップ)から外れて浮き上がってしまっています。

 

膝蓋骨脱臼 手術2

大腿骨頭を寛骨臼に戻した状態です。

 

股関節を外したり、戻すのが容易ということは、再脱臼の恐れが高いということです。原因は股関節を包んでいた関節包が完全に破け、骨頭の人体も完全に断裂してしまっているからです。

また、大腿骨の大転子というところに付着している、股関節を支えている殿筋群の深殿筋もずたずたに裂けており、わずかに筋が残っている程度でした。

膝蓋骨脱臼 手術3

 

まずは関節包にアプローチし、PDSplusという、数カ月で溶けていく糸で関節包を縫っています。

膝蓋骨脱臼 手術5

 

続いて、切れてしまった深殿筋も縫っていきます。

膝蓋骨脱臼 手術7

 

股関節の尾側の坐骨神経が問題ないかも確認しています。

膝蓋骨脱臼 手術6

 

股関節脱臼の整復の際にインプラントを入れて股関節の安定化を図ることもありますが、成長期の赤ちゃんなので、今回は関節包と深殿筋の縫合をすることで手術を終了としました。

膝蓋骨脱臼 手術8 膝蓋骨脱臼 手術9

 

傷口は3㎝ほどです。赤ちゃんに負担を極力かけないように、40分ほどで手術終了です。

膝蓋骨脱臼 手術10

 

術後のレントゲン写真です。キレイに股関節がはまっています。

 

股関節脱臼 術後レントゲン

翌日の入院中の写真です。お人形さんと一緒にリラックスしています。手術よく頑張りましたね!

10日後には元気に歩いて抜糸に来てくれました😀

股関節脱臼 術後

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