【犬】肛門周囲腺腫とは
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「犬の肛門周囲腺腫」についてご紹介します。
犬の肛門周囲に認められる腫瘍には肛門周囲腺腫、肛門周囲腺癌、肛門嚢アポクリン腺癌の3つが挙げられます。その中でも今回は、肛門周囲腺腫について実際の症例を用いてご紹介していきます。
肛門には、周囲に肛門周囲腺という分泌腺があります。肛門周囲腺腫とは、肛門周囲腺が腫瘍化した良性の腫瘍の事を指します。肛門周囲の腫瘍は、ほとんどが肛門周囲腺腫である場合が多いです。
■肛門周囲腺腫とは?
「肛門周囲腺腫」は“がん”ではなく良性腫瘍です。肛門周囲腺と呼ばれる肛門の周囲にある皮脂腺が腫瘍性に増殖する病気で、尾の付け根や包皮など、肛門の周囲以外にも発生します。かなり大きくなることもありますが、治癒を狙えます。
また、肛門周囲腺腫は、去勢をしていないオスの犬でしばしば見られ、去勢により発生率は低下するため、男性ホルモンの影響を大きく受けていると考えられます。メスの犬に発生することは稀です。
悪性のものは「肛門周囲腺癌」と呼ばれ、治癒は困難です。見分けがつかないので早めに検査を受けた方が良いでしょう。肛門周囲腺癌の場合は、去勢の有無や、雄性ホルモンとは関係がありません。
肛門周囲腺腫は良性腫瘍なので転移はしませんが、次第に大きくなることもあり、さらには悪性腫瘍との見分けが難しいため、腫瘍が小さいうちに対応した方が良い病気です。
■肛門周囲腺腫の症状
肛門周囲腺腫は、肛門の周りに腫瘍ができてわかります。腫瘍そのものは痛みを引き起こすことはないので、気付いたらできているということが多いです。
良性の腫瘍ですが、肛門のまわりの腺組織に硬いしこりができ、放置しておくと腫瘍は大きくなり、犬が気にしてひっきりなしに舐め、腫瘍から出血したり、感染が起こったりすることがあります。排泄時に痛みを伴えば、犬は排泄を嫌がるようになります。
腫瘍はひとつだけのこともあれば、複数できることもあります。いずれも肛門周囲に発生します。ですから肛門周囲に異常な腫瘍が確認できたら、なるべく早く獣医師の診断を受けていただく事をお勧めします。
■肛門周囲腺腫の原因
【去勢をしていない中高齢のオスは要注意】
肛門周囲腺腫の原因については詳しくは分かっていません。しかし、未去勢の中高齢(6歳以上)のオスで多く見られることから、男性ホルモンが深く関わっていると考えられています。
■肛門周囲腺腫の検査&診断
肛門周囲腺腫の検査には、患部に針を刺して細胞を診る針吸引細胞診という方法もありますが、この診断方法では確実な診断を下すことはできません。
肛門の周囲にできる腫瘍には、良性の肛門周囲腺腫と、悪性の肛門周囲腺癌、肛門嚢アポクリン腺癌などがあります。肛門の腫瘍と他の腫瘍とを区別はできても、肛門周囲腺腫の確定診断はできないのです。
肛門周囲腺腫の確定診断は、摘出した腫瘍の病理組織検査により行われます。
必要であれば、血液検査やX線検査、超音波検査など、他の検査も実施されます。
■肛門周囲腺腫の治療&予後
【一般的な治療法】
手術で腫瘍を取り除きます。ただし、肛門の周りの皮膚はあまり余裕がなく、筋肉も多いため、あまり大きく切り取ることができません。そのため、腫瘍が小さいうちに外科手術で切り取ることが重要です。去勢していない場合は去勢して、予後を改善します。
※あまり大きくならず生活に支障がない場合や高齢で手術や麻酔に耐えられない場合など、手術が推奨されないケースもあります。
なお、手術をしてもまた新しい腫瘍が出てきてしまう(再発する)ことがありますので手術後も注意が必要です。また、腫瘍を取り除くのと同時に去勢手術を行います。その後、ホルモン剤投与で男性ホルモンの働きを抑え、予後を改善することもあります。
犬の肛門周囲にできる肛門嚢アポクリン腺癌、肛門周囲腺がんの場合は、腫瘍はその場に留まりません。リンパ節や肺転移を起こしやすく予後は良くありません。
悪性か良性かを見分けることは非常に難しいため、しこりを見つけたら早めに獣医師の診察を受けていただく事をお勧めします。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
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■肛門周囲腺腫の症例
今回は肛門周囲腺腫、且つ睾丸も腫瘍化してしまった子を紹介します。
肛門周辺にしこりがあるという主訴で来院されました。
まずは腫瘍化した睾丸にアプローチします。
睾丸と精巣を摘出しています。
摘出後に縫合し、1つ目の手術が完了です。
摘出した睾丸。
続いて、肛門周囲腺腫にアプローチしていきます。
腫瘍化した箇所を切除しています。
切除した肛門周囲腺腫。
■肛門周囲腺腫の予防
発生には男性ホルモンが関与していると考えられているため、去勢手術により予防することができます。
高齢になり基礎疾患などがあると麻酔のリスクが上がるため、若くて元気なうちに去勢手術をすると良いでしょう。
また、腫瘍は小さいうちでないと完全に摘出できないこともあるので、去勢をしていないオスの犬の飼い主さんは、なるべく早く見つけられるよう、日頃から観察してあげてください。
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