【犬】前十字靭帯断裂とTPLO症例について

滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。

今回は「前十字靭帯断裂」についてと、TPLOという術式で手術をした症例をご紹介します。

 

■前十字靭帯断裂とは?


前十字靭帯とは、大腿骨と脛骨を繋ぐ靭帯で、膝の中にあります。下腿部の前すべりを防いでいる靭帯です。

大型犬では、体重・運動負荷による断裂が多く、小型犬では同じ理由以外に、数多く存在する膝蓋骨内方脱臼を放置して、膝から下が内旋した不安定な状態での運動を繰り返していたことによる断裂も多いと認められています。

前十字靭帯が断裂すると、特に内側の半月板を損傷することが多く、『コクッ』というクリック音が膝から発生し、ワンちゃんも痛がることが多くなります。

 

■前十字靭帯断裂の症状と好発犬種


部分断裂の初期であれば無症状の場合もありますが、基本的に様々な程度の跛行(歩様異常)が見られます。

□ 患脚の挙上(膝を曲げたまま歩く)

□ 跛行(肢を引きずる、もたつく)

□ 後肢を触ると嫌がる

□ 膝関節の腫脹(水が貯まる・関節包の肥厚)

□ 座った時に後ろの肢を投げ出し、きれいなお座りができない など

また、階段の昇り降り後やドッグラン・公園で遊んだ後、フローリング床で滑った後などに挙上や跛行が多く見られます。

<好発犬種>

すべてのワンちゃんで靭帯損傷が生じる可能性がありますが、成長期に損傷することは少なく、中年齢以降(4,5歳~)に多いとされています。
膝蓋骨脱臼の多いトイプードル、ヨークシャテリア、チワワなどの小型犬、
柴犬・コーギー・キャバリアなどの中型犬、
ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ハスキー、バーニーズマウンテンドッグなどの大型犬に多いという統計が発表されています。

 

■前十字靭帯断裂の診断・治療


Step1
問診・視診・一般身体検査

Step2
歩様検査

Step3
触診(整形外科学的検査)
立位・横臥位

Step4
レントゲン検査・超音波検査

血液検査・関節液検査

(関節鏡・CT検査など)

Step5
前十字靭帯断裂の確認・半月板損傷の評価

Step6
外科的治療(または内科的・保存治療)

Step7
リハビリ

 

■前十字靭帯断裂の外科的治療


前十字靭帯に対する主な手術方法として、30-40年前からの方法として関節内法(Over The Top法)、関節外法(LSS)、近年ではTPLO、TTA、CBLOなどが挙げられます。

ここでは、近年、ロッキングプレートが開発されたことで世界的スタンダードの術式になったTPLO、当院でも主流となった術式について解説します。

 

TPLO (Tibial Plateau Leveling Osteotomy)
=脛骨高平部水平化骨切り術

TPLOは脛骨の一部の骨を円形に切り、切った脛骨近位を計画した分だけ回転させ、回転させた脛骨を固定するために専用のインプラント(TPLOロッキングプレート・スクリュー)を装着します。脛骨が前方へ滑るのを抑えて、関節を安定化させて症状を改善する手術です。

 

■前十字靭帯断裂の内科的治療


関節のサプリメントや、抗炎症剤・鎮痛剤の内服薬を使って症状を緩和します。また、症状が悪化しないように、体重管理と運動の制限を行い、関節への負担を軽減します。

部分的な前十字靭帯断裂の場合には、内科的治療で経過を見ることも多いですが、基本的には関節炎や症状は悪化していくので、内科的治療で痛みや症状の緩和が見られないときは、外科的治療・手術に切り替えます。術後に内科的治療やリハビリテーションをすることも多いです。

<術後管理&リハビリ>

入院は約3日〜1週間で、管理の方法は手術の方法により異なります。TPLO法では、術後はじめの2−3日間のみロバート・ジョーンズ包帯というやわらかい包帯による固定を行っています。また、術後に包帯を除去した頃から温熱治療を開始し、関節周囲のリハビリ運動やマッサージを行います。

退院後は術後1ヶ月までは厳重にケージの中で安静にさせ、それ以降2ヶ月目(仮骨で回転させた脛骨が癒合してくる頃)まではジャンプ・キック・ステップは控えてもらい、リード管理化での運動をしてもらいます。術後2ヶ月目からは徐々にまっすぐ歩く散歩を再開し、少しずつ時間をのばしていきます。

 

 

ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の生々しい写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。

■前十字靭帯断裂のTPLO症例


改めてになりますが、TPLOでは脛骨の一部の骨を円形に切り、切った脛骨近位を計画した分だけ回転させ、回転させた脛骨を固定するために専用のインプラント(TPLOロッキングプレート・スクリュー)を装着します。脛骨が前方へ滑るのを抑えて、関節を安定化させて症状を改善する手術です。

TPLOをするにあたり、正確なプランニングが非常に大切になります。

レントゲン画像をもとに、脛骨上部の面に対する大腿骨の角度(脛骨高平部水平角=TPA)を測定します。

TPLOでは脛骨の関節面の骨を円形に切り、切った脛骨近位を回転させ、ロッキングプレートで固定するのですが、
症例それぞれで最も適切な器材のサイズ・メーカーを選定し、回転度数をプランニングします。

この症例は、以前、膝蓋骨脱臼の治療をして脛骨粗面移植を行なっていたため、
やむを得ず、反体側の脚でプランニングすることにしました。

 

まずは患部を露出します。

以前の膝蓋骨脱臼手術時に使用した針金をまずは外していきます。

 

続いて、骨切りのためのカーブ状になったブレードを用いて、脛骨上部を切っていきます。

 

続いて、術前にプランニングした通りに、切った脛骨を回転させていきます。
ズレが無いようにミリ単位で調整していきます。

調整した角度がずれないように、プレートを固定していきます。

プレート固定が完了しました。

皮下組織や皮膚を縫合していきます。

長丁場の手術頑張りました!少しお疲れかな?

 

TPLOは成功すれば術後の経過が非常に安定し、早期の回復を期待できます。

一方で、特別な器具と、正確な計画、それを1mmの狂い無く実行する熟練の技術が必要な術式です。

当院の院長は、膝の手術は約1000例、その中で200症例近い前十字靭帯断裂の手術実績がありますので、安心してご依頼ください。

 

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