愛犬・愛猫の命を守る熱中症対策 〜当院での実例から学ぶ〜
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「犬猫の熱中症」についてご紹介します。
今年の夏も、猛暑が予想されていますね。人間と同じように、大切なワンちゃんやネコちゃんにとっても熱中症は命に関わる、とても危険な病気です。
「うちの子は大丈夫かな?」と心配な飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。今回は、当院で実際にあった熱中症の症例から、熱中症の恐ろしさと、もしもの時にどうすればいいか、そして普段からの予防策についてお伝えします。

■熱中症は突然やってくる! ~当院での実例~
この夏、当院に来院された熱中症の症例を報告いたします。大津院は景観の素晴らしい琵琶湖の湖岸の散歩道が近いため、毎年のように熱中症疑いの子が緊急で来院されます。
熱中症は人だけでなく、ワンちゃん、猫ちゃんにも起こりうる怖い病気です。最近はペットと一緒に泊まれるホテルなども増え、県内のみならず、県外からもワンちゃんを連れて琵琶湖を訪れる方が増えました。しかし、旅先での慣れない環境や、ちょっとした油断が熱中症に繋がることも。
<症例1:旅行中の柴犬ちゃん>
6月上旬に県外から柴犬ちゃんと一緒に旅行で滋賀に来られたご夫婦。宿泊予定のホテルに行く前に琵琶湖の湖畔をお散歩していました。しかし、途中からワンちゃんの呼吸の様子がおかしくなり、当院に連絡をいただきました。お電話でのお話、後ろで聞こえるワンちゃんの呼吸の音から、熱中症の可能性が高いと判断し、緊急での来院を指示しました。
来院を待つ間に、病院のスタッフ間で情報を共有。酸素吸入や血管確保の準備、オペ室を冷やし、保冷材などの準備をし、万全の態勢で到着を待ちます。
来院後すぐに診察室内へ案内。院内トリアージ(患者さんの症状や状態を診て、緊急度や重症度を判断し、治療の優先順位を決定)を実施し、状態の悪い子には緊急で人手を集めます(その間、他の患者さんをお待たせすることになりますがご理解ください)。
この時点での体温は40.3℃。自力で歩けていましたが、意識レベルはややパニックになっており、舌や歯茎が紫色に変色して酸素が足りていない状態で、ガーッガーッという苦しそうな呼吸をしていました。オペ室に移動し、血管確保、酸素吸入、冷却処置(急に体温を下げ過ぎても危険なので、こまめに体温測定をします)、静脈点滴を開始。必要であれば気管挿管をする準備もしています。
このワンちゃんは元々興奮しやすい性格だったので鎮静剤を使用し、状態を落ちつけました。異常な呼吸が続くことで喉の腫れが起こるので、それを抑えるようなお注射をしていきます。
治療の甲斐あり、体温も38.1℃まで下がり、呼吸状態も安定しました。血液検査を実施し、明日以降に熱中症の影響が体に出ていないか、今後の体調に影響がないかを確認するためのデータをとります。そのまま入院し、静脈点滴を実施しました。翌日、血液検査や画像検査を実施しましたが、大きな異常はなく、無事に退院することができました。
一週間後、地元に帰られた飼い主さんからスタッフ宛にお礼のお手紙が届きました。熱中症の後遺症もなく、元気に過ごしているとのお便りでした。このようなお手紙は非常に嬉しく、日々働く上での大きなモチベーションになります。
この日の最高気温は28.8℃。人にとってはそこまで暑くない気温でも、ワンちゃんは地面に近く反射熱の影響を受けやすく、普段とは違う散歩コースでの興奮も加わり、熱中症のリスクが高まります。
<症例2:お散歩後のフレンチブルドッグちゃん>
8歳のフレンチブルドッグちゃん。入院中のお父さんの面会がてら公園を1時間散歩した後から、呼吸がおかしくヨダレがとまらないとの連絡をいただきました。犬種、状況から熱中症の可能性が高いと判断し、緊急での来院を指示。
来院時、体温は39.8℃、意識はしっかりしているものの、ブルドーザーのような呼吸をしていました。すぐに酸素を吸わせ、喉の冷却処置を開始。
一旦呼吸が落ち着き、静脈点滴を流していましたが、この子はお家でもケージに入るのを嫌がる性格のようで、入院ケージ内に入ると再度興奮してしまいました。そのため、落ち着かせるためのお薬を使い、落ち着いたタイミングでご家族のもとへ帰ってもらう選択をしました。このように、その子の性格に合わせて、実施すべき処置は変えていきます。
翌日、ご家族とお電話でお話した際は、状況は落ち着いているとの事で、後日実施した血液検査でも熱中症の後遺症はみられませんでした。
■熱中症は初期対応が命!大切な愛犬・愛猫を守るために
今回ご紹介した2頭は無事に救命できたのですが、熱中症はさっきまで元気でいた子が、急に体調不良になり、ひいては命に関わることがある怖い病気です。だからこそ、飼い主さんの日頃の注意と、もしもの時の「初期対応」が何よりも重要になります。
<これだけは知っておきたい!熱中症の注意点と予防策>
1.暑い時間の散歩は避けて!
犬のお散歩は、早朝や日が完全に沈んでからの涼しい時間帯にしましょう。アスファルトの表面温度は、気温以上に高くなることがあります。地面に近いワンちゃんは、人よりもアスファルトからの照り返しの影響を受けやすく、熱中症のリスクが高まります。また、水分を十分に摂れるように常に水を与えておく、犬が日差しを避けることができるように日陰で休憩できる場所を確保する、などの対策が大切です。

2.室内でも油断大敵!
エアコンや扇風機を適切に使い、室温は25~28℃程度に保ち、湿度も下げてあげましょう。風通しを良くし、直射日光が当たらない場所で過ごさせてください。お留守番の際も、エアコンは必ずつけてあげましょう。
3.水分補給を忘れずに!
いつでも新鮮な水が飲めるように、複数箇所に水を用意しましょう。特に猫は新鮮な水を好むので、こまめな交換も大切です。
4.クールグッズを味方に
クールマットやクールベスト、濡らして使えるバンダナ、凍らせたペットボトルなど、様々なクールグッズを活用し、効率的に体を冷やしましょう。
5.車内放置は絶対にNG!
「ちょっとだけ」でも、車内にペットを置いて離れるのは絶対にやめてください。車内はあっという間に高温になり、取り返しのつかない事態を招きます。

<こんな症状が見られたら、すぐに動物病院へ!>
また、熱中症の症状として、
・パンティング(あるいは呼吸困難)
・舌が紫色になる(チアノーゼ)
・意識が朦朧とする
・嘔吐や下痢
・痙攣
などがみられます。
万が一、このような症状がみられた際は、すぐに動物病院までご連絡ください。熱中症は初期対応が極めて重要な疾患です。当院では獣医師、愛玩動物看護師のチームワークの元、緊急時にはスタッフ総手で救命のために迅速な対応を心がけています。
今年の夏も、愛するワンちゃん、ネコちゃんと楽しく、安全に過ごせるよう、一緒に熱中症対策を頑張りましょう!
また、緊急時以外の普段の些細なお悩みごとや健康相談などもしていただければ幸いです。
記事作成
エルム動物病院 大津院 獣医師 森島
内科全般や、猫の診察、循環器のエコー検査を得意としています。
特に循環器に関しては、近畿動物医療研修センターの研究生として日々精進を重ねています。
その他、当院の手術実績はコチラから
その他、「犬の病気・猫の病気」の記事一覧はコチラから
Box content