【ノミの恐怖】8階に住む猫ちゃんを襲った悲劇と市販薬の落とし穴
滋賀県 草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「ノミの大量寄生が引き起こした貧血」についてご紹介します。
『うちの子は家から出ないから大丈夫』
『マンションの高層階だからノミはいないはず』
もしそう思っている飼い主様がいらっしゃれば、今回のブログはきっと飼い主様の認識を覆すでしょう。

最近、改めてノミ・ダニの予防の重要性を感じた症例を経験したので共有いたします。
■マンション8階、室内飼いの猫ちゃんを襲ったノミの恐怖
マンションの8階で室内飼育されている8歳の日本猫ちゃん。たまにベランダに出るので、市販のノミの駆虫薬をつけていました。先日、毛玉を吐いた後に血を吐き、その後から元気・食欲がないとの事で来院されました。
猫ちゃんの体にはノミが大量に寄生しており、可視粘膜は蒼白でした。動物病院専用のノミの駆虫薬をつけ、血液検査を実施すると貧血の指標であるヘマトクリット値が16.7%でした。(通常は30~50%)これ以上貧血が進行すれば、輸血をしないと命に関わるくらい危険な状態でした。
■なぜ貧血に?ノミが引き起こす深刻な健康被害
猫ちゃんの貧血の原因は、多岐にわたりますが、大きく以下の3つに分類されます。
・血が壊される(溶血)
自己免疫疾患や感染症、遺伝性疾患や中毒など。
・血が作れない(赤血球の産生能低下)
骨髄疾患や感染症、栄養不良、慢性腎臓病や慢性の炎症など
・出血
ノミの大量寄生や外傷、手術、消化管出血など。
今回の症例ではノミの大量寄生はみられるものの、仔猫以外でそこまで重度の貧血を呈すことは珍しいことです。そのため、併発疾患がないか、外部の専門機関でのPCR検査や院内のキットを使った検査、画像検査などを行いましたが、ノミ以外に重度の貧血を呈すような異常は見つかりませんでした。
結果として、今回のネコちゃんはノミの駆虫と、点滴などの支持療法を行うことで体調はどんどん良くなりました。一ヶ月後の検査ではヘマトクリット値が47%まで回復していました。今後は月に1回、ノミ・ダニの駆虫薬をつけに来院される予定です。
※要チェック※
ここで知っていただきたいのは、「ノミの吸血速度は非常に早く、ネコノミでは宿主に付着した初日にすでに自身の体重の10倍量、そして2~3日以内には1日当たり体重の15倍量(約13.6μl)吸血する※」という報告があることです。
※引用文献:モダンメディア 59巻2号2013「衛生昆虫の解説」
つまり、76匹のノミが寄生していると、1日で1ml吸血されてしまいます。一般的に、動物の血液量は体重の約5%〜7%と言われています。例えば、体重1kgの子猫の場合、総血液量はおよそ50ml〜70ml程度しかありません。総血液量の15%〜20%以上の損失があると、臨床的に明らかな貧血症状(粘膜蒼白、元気消失、食欲不振など)が現れ、さらに損失が続くと命に関わる危険な状態になります。
数百、数千(ノミの繁殖力を考えると起こり得ることです)ものノミが寄生して吸血し続けていると、数日で今回の猫ちゃんのように重度の貧血を引き起こし、命に関わることもあるのです。
■「うちの子は大丈夫」は危険!見えないノミの脅威
今回の症例で驚いたのは、以下の2点です。
1.この猫ちゃんはマンションの8階で飼育されていたということ
2.成猫でもノミの大量寄生で命の危険があるくらい重度な貧血を呈したこと
このマンションはペット可の物件で、当院の患者さんも多くお住まいです。今年は一軒家にお住まいの完全室内飼いの猫ちゃんにもノミの寄生がみられるという事例が複数ありました。改めて、しっかりとノミ予防の啓蒙をしていかなければならないと思いました。
■ノミの被害はペットだけじゃない!人への影響と市販薬の落とし穴
「ノミがいる」と聞くと、「痒みだけ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ノミは痒みだけでなく、以下のような深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。
・貧血
特に子猫や小型犬、そして今回の症例のように成猫でも大量寄生により重度の貧血を引き起こし、命に関わることもあります。
・皮膚炎
ノミの唾液に対するアレルギー反応で、激しい痒みや湿疹、脱毛などを引き起こします。
・瓜実条虫症(サナダムシ)
ノミが瓜実条虫の卵を媒介し、ペットがノミをなめたりすることで感染します。下痢や嘔吐、体重減少などの症状が見られます。
・バルトネラ症(猫ひっかき病)
ノミが媒介する細菌によって引き起こされ、感染した猫に引っ掻かれたりすることで人に感染する可能性があります。発熱やリンパ節の腫れなどの症状が出ることがあります。
そして、重要なのが市販のノミ駆除薬のほとんどは、効果が限定的であるという点です。今回の症例の猫ちゃんも市販薬を使用していましたが、それでも大量のノミに寄生されてしまいました。市販薬は有効成分の種類や配合量が限られているため、残念ながら十分な効果が得られないことが多いのです。
■大切な家族を守るために、動物病院での予防を
大切なペットと、そしてご家族の健康を守るためには、効果的で安全な予防が不可欠です。
当院では猫ちゃんのノミ・ダニ予防にスポットタイプのお薬を複数用意しています。市販薬では得られない確かな効果が期待でき、ペットの体重や健康状態に合わせて最適なものをご提案できます。
これらの予防薬は、ノミだけでなくマダニの予防にも効果を発揮します。 マダニはノミと同様に吸血によって貧血を引き起こすだけでなく、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)など、人にも感染する可能性のある「人獣共通感染症」を媒介することが知られています。実際にSFTSによって亡くなられた方もいらっしゃり、決して他人事ではありません。
ノミ・マダニ予防についてご不明な点がありましたら、獣医師までお気軽にお尋ねください。
また猫ちゃんの健康診断のキャンペーンも8月いっぱいまで行っておりますので、この機会に一度健康診断をお受けになってはいかがでしょうか。
記事作成
エルム動物病院 大津院 獣医師 森島
内科全般や、猫の診察、循環器のエコー検査を得意としています。
特に循環器に関しては、近畿動物医療研修センターの研究生として日々精進を重ねています。
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