【猫の交通事故】後悔する前に知ってほしい、外に出る”ほんの少し”の危険
滋賀県草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「猫の交通事故」について、その恐ろしさと、愛猫を悲劇から守るために私たちができることについてお話しします。
「うちの子は賢いから大丈夫」
「車が来たらちゃんと避けるはず」
「少しの時間だけなら…」
そう思って、愛猫を外に出していませんか?その“ほんの少し”の油断が、取り返しのつかない事故につながり、愛猫の命を奪ってしまう可能性があります。交通事故は、猫が外で遭遇する危険の中で最も深刻なものの一つです。
今回は、交通事故が猫の体にどれほど凄まじいダメージを与えるのか、そして、全ての飼い主様に知ってほしい「完全室内飼育」の重要性について、ある小さな子猫の壮絶な手術記録と共にお伝えします。
交通事故が引き起こす、目に見えない深刻なダメージ
猫が交通事故に遭うと、目に見える外傷(出血や骨折)だけでなく、内臓にも致命的なダメージを負っていることが少なくありません。車との衝突は、猫の小さな体には想像を絶する衝撃だからです。
・胸部の損傷(横隔膜ヘルニア、肺挫傷など)
強い衝撃で胸とお腹を隔てている筋肉の膜(横隔膜)が破れ、お腹の中の臓器(胃や肝臓など)が胸の中に飛び出してしまう「横隔膜ヘルニア」を起こすことがあります。飛び出した臓器が肺や心臓を圧迫し、深刻な呼吸困難を引き起こす、命に直結する非常に危険な状態です。
・腹部の損傷(内臓破裂、腹腔内出血)
肝臓や脾臓、膀胱などが破裂し、お腹の中で大出血や尿の腹腔内への漏れ・貯留を起こします。外見上は異常がなくても、体の中では刻一刻と命が失われている状態です。
・頭部の損傷(頭蓋内出血、脳挫傷)
頭を強打することで、意識障害やけいれん、失明などを引き起こします。
・骨盤や四肢の骨折
特に骨盤の骨折は、排尿や排便ができなくなる後遺症が残ることがあります。
このように、交通事故によるケガは全身に及び、多発性外傷となることがほとんどです。一命を取り留めたとしても、生涯にわたる障害が残る可能性も少なくありません。
なぜ猫は交通事故に遭いやすいのか?
猫は非常に俊敏で賢い動物ですが、それでも交通事故のリスクから逃れることはできません。
・車のスピードと死角
猫は動くものを追いかける習性がありますが、車のスピードを正確に認識することはできません。また、駐車している車の下や物陰は猫にとって安心できる場所ですが、ドライバーからは死角となり、発進時に気づかれず轢かれてしまう事故が後を絶ちません。
・パニック
クラクションや急な車の接近に驚き、パニックに陥って道路に飛び出してしまったり、その場で固まってしまうことがあります。
・縄張り争いや繁殖行動
特に発情期のオス猫は、メス猫を追いかけて夢中になり、周囲への注意が散漫になります。
猫の能力を過信せず、彼らが常に危険と隣り合わせの環境にいることを理解する必要があります。
交通事故に遭ってしまったら…まず何をすべきか
もし、交通事故に遭った猫を見つけたり、愛猫が怪我をして帰ってきたりした場合は、パニックにならず、以下のことを行ってください。
・安全の確保
まずはご自身の安全を確保してください。道路上であれば、後続車に注意しながら、猫を安全な場所に移動させます。
・保温と安静
猫をバスタオルなどでそっと包み、体を温めながら安静にさせます。無理に動かしたり、抱きしめたりしないでください。骨折している場合、状態を悪化させる可能性があります。
・すぐに動物病院へ
見た目にはケガがなくても、必ず動物病院を受診してください。 内臓損傷は外からは分かりません。一刻も早く獣医師の診察を受けることが、命を救う可能性を高めます。来院する際は、事前に電話で状況を伝えておくと、病院側も準備ができ、よりスムーズな対応が可能になります。
診断と治療:時間との戦い
交通事故で運び込まれた動物の治療は、時間との戦いです。まずは命を最優先に、状態を安定させるための処置から開始します。
・初期治療(ショックへの対応)
点滴(静脈輸液)で血圧を維持し、酸素吸入で呼吸を助け、痛み止めを投与します。
・各種検査による全身の評価
状態が少し安定したら、レントゲン検査や超音波(エコー)検査で、体のどこにどれほどのダメージがあるのか(骨折、内臓損傷、胸水、腹腔内出血など)を迅速かつ正確に評価します。
・外科手術
検査結果に基づき、命に最も影響を与えている損傷から緊急手術を行います。例えば、呼吸を圧迫している横隔膜ヘルニアや、止血が必要な内臓破裂などが最優先されます。複数の骨折がある場合でも、まずは生命維持に関わる手術を優先し、その他の骨折は体が安定してから後日改めて手術することもあります。治療は長期に及び、何度も手術が必要になることも珍しくありません。
交通事故を生き抜いた、小さな子猫の症例報告
生後約2ヶ月、体重わずか500gの子猫ちゃん。「駐車場で車の下に倒れているところを保護した」と、心優しい方に運び込まれてきました。ぐったりして呼吸が浅く、危険な状態でした。検査の結果、交通事故による凄まじいダメージが全身に及んでいることが分かりました。
- 横隔膜ヘルニア:お腹の臓器が胸に入り込み、肺を圧迫し呼吸困難に。
- 多発性骨折:肋骨、骨盤(仙腸関節脱臼、恥骨・坐骨粉砕骨折)、足の付け根(大腿骨頸部骨折)
これほど小さな体で、あまりにも過酷な診断結果でした。まず、命に直結する横隔膜ヘルニアを整復する手術を実施しました。
ここからは実際の手術症例をご紹介します。
手術中の生々しい写真もあるため、ご了承いただける方のみお進みください。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
開腹し、横隔膜に開いてしまった穴(裂け目)を探します。そして、その穴を丁寧に、空気が漏れないようにしっかりと縫い合わせて塞ぎます。
胸腔ドレーンの設置を行います。胸の中は、肺が膨らむために「陰圧(いんあつ)」という、空気が吸い込まれるような状態が保たれています。しかし、ヘルニアや手術によって胸の中に不要な空気や血液などの液体が溜まると、この陰圧が失われ、肺がうまく膨らむことができません。この邪魔な空気や液体を体の外に排出するための管が「胸腔ドレーン」です。
他の臓器に損傷が無いか、確認しています。写真は腸と脾臓です。子猫ちゃんなので、脾臓は人の指よりも小さいです。その後、お腹の中を温かい生理食塩水できれいに洗浄します。
手術は無事に成功。術後、子猫ちゃんは一生懸命に生きようと頑張ってくれました。
多数の骨折については、まず体力の回復を優先するため、一度退院し、後日改めて手術を検討することになりました。この小さな命が繋がったのは、早期に保護され、迅速に治療を開始できた奇跡の連続でした。
愛猫を悲劇から守る、唯一にして絶対の方法
今回の症例は、私たちに「外の世界の厳しさ」を改めて教えてくれました。そして、このような悲劇を防ぐ方法は、実はとてもシンプルです。
・完全室内飼育の徹底
これが、愛猫を交通事故から100%守ることができる、唯一にして絶対の方法です。猫は室内だけでも十分に幸せに暮らすことができます。キャットタワーを設置したり、おもちゃで遊んであげたりすることで、運動不足やストレスは解消できます。
・脱走防止対策
「うちの子は室内飼いだから」と安心せず、玄関のドアや窓の開閉には細心の注意を払いましょう。網戸のロックや、玄関への脱走防止ゲートの設置も非常に有効です。
・マイクロチップの装着
万が一脱走してしまった場合に備え、マイクロチップを装着しておくことで、保護された際に飼い主様の元へ戻れる可能性が格段に高まります。
最後に
「外の世界を自由に散歩させてあげたい」という飼い主様の優しい気持ちは、痛いほど分かります。しかし、外の世界は、私たちが思う以上に危険に満ち溢れています。交通事故だけでなく、感染症、他の猫との喧嘩、虐待、迷子など、様々なリスクが愛猫を待ち受けています。
一度失ってしまった命は、二度と戻ってきません。後悔してからでは遅いのです。愛猫にとって、最も安全で幸せな場所は、危険のない快適な家の中であり、大好きな飼い主様のそばです。
このブログが、愛猫とのかけがえのない毎日を守るきっかけになることを、心から願っています。脱走防止対策など、具体的な方法でご不明な点があれば、いつでも当院にご相談ください。
記事作成
エルム動物病院 院長 奥村 滋
一般的な内科診療のほか、簡易な手術から難度の高い整形外科・軟部外科手術までを担当しております。
特に整形外科では滋賀県のみならず、福井県や京都府の動物病院から、依頼・紹介手術を受けて執刀しており、普通の病院では行わない整形外科だけでも、その数は約1900件の実績があります。
その他、当院の手術実績はコチラから
その他、「犬の病気・猫の病気」の記事一覧はコチラから
Box content
