【首の痛み・ふらつき】そのサイン、犬の環軸亜脱臼かも?
滋賀県草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「犬の環軸亜脱臼(かんじくあだっきゅう)」についてご紹介します。
「愛犬が首を触られるのを嫌がる」
「最近、歩き方がふらついている気がする…」
その心配なサインは、もしかしたら「環軸亜脱臼」という首の病気が原因かもしれません。環軸亜脱臼は、特にポメラニアン、チワワやヨークシャー・テリアなどの小型犬に多く見られる病気で、早期発見と適切な治療が非常に大切です。重症化すると四肢麻痺、呼吸停止につながることもあるため、飼い主さんがこの病気について正しく知っておくことが、愛犬の健康を守る鍵となります。
今回は、そんな環軸亜脱臼について、詳しくお伝えします。
環軸亜脱臼ってどんな病気?
犬の首の骨は、頭蓋骨から繋がる7つの「頸椎(けいつい)」で構成されています。環軸亜脱臼は、その1番目と2番目の骨、環椎(かんつい)と軸椎(じくつい)の位置がずれてしまう病気です。
通常、この2つの骨は靭帯や骨の突起でしっかり連結されていて、頭をスムーズに動かす役割を担っています。しかし、この連結部分に異常があると、少しの衝撃で骨がずれてしまい、骨の中を通る非常に重要な神経の束である「脊髄」を圧迫してしまうのです。
この脊髄の圧迫が、痛みや麻痺といった様々な神経症状を引き起こします。特に若い小型犬に多く、命に関わることもある深刻な病気のため、早期の対応が何よりも重要です。
どうして環軸亜脱臼になるの?主な原因はこれ!
環軸亜脱臼が起こる原因は、大きく分けて2つあります。
・先天性の異常
最も多い原因です。生まれつき、環椎と軸椎を繋ぎとめる骨の突起(歯突起)や靭帯がうまく発達していない(形成不全)ために、首が不安定な状態になっています。特に、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、チワワ、マルチーズ、トイ・プードルなどの小型犬で多く見られます。このような素因を持っていると、家の中でジャンプしたり、ソファから飛び降りたりといった日常生活の些細な動きがきっかけで発症することがあります。
・外傷(ケガ)
交通事故や高い場所からの落下など、首に強い衝撃が加わることで、正常な骨や靭帯が損傷して発症するケースです。これは犬種に関わらず、どんな犬にも起こる可能性があります。
いずれの原因でも、骨がずれて脊髄を圧迫することで、様々な神経症状が現れます。
こんなサインに気づいて!環軸亜脱臼の症状
脊髄がどれくらい圧迫されているかによって、症状の現れ方は様々です。次のようなサインが見られたら、すぐに動物病院を受診してください。
首の痛み
・最もよく見られる症状です。
・首や頭を触られるのを嫌がる
・頭を下げたまま動かさない
・抱き上げようとすると「キャン!」と鳴く
・ごはんを食べる姿勢がつらそう
歩き方の異常(運動失調)
・歩くときにふらつく、よろける
・足元がおぼつかない、つまずきやすい
・四肢の動きがぎこちない
四肢の麻痺
・症状が進行すると、足に力が入らなくなり、麻痺が起こります。
・初めは後ろ足から、重症化すると四肢全てが麻痺し、立てなくなることもあります。
その他の重篤な症状
・元気や食欲がなくなる
・呼吸が浅い、苦しそう(呼吸困難)
・自分で排尿や排便ができない
子犬の頃から何となく元気がない、動きが鈍いといった軽い症状が、成長とともに悪化していくことも少なくありません。「うちの子はおとなしい性格だから」と思わず、少しでも気になることがあればご相談ください。
診断と検査:正確な診断が治療の鍵!
環軸亜脱臼を正確に診断するためには、慎重な検査が必要です。
・神経学的検査
歩き方や姿勢、体の様々な部分の反射を詳しくチェックし、神経のどこに異常があるのかを突き止めます。
・レントゲン検査
首の骨のレントゲンを撮影し、環椎と軸椎の位置関係を確認します。多くの場合、この検査で診断がつきますが、より詳しく調べるために追加の検査が必要になることもあります。
・CT検査・MRI検査
レントゲンよりもさらに詳しく骨や脊髄の状態を見ることができる検査です。CT検査は、骨の形やずれを立体的に評価するのに優れています。MRI検査は、脊髄がどれくらい圧迫されているか、神経のダメージの程度を評価するのに最も優れた検査です。当院では検査ができないため、実施する場合は専門機関をご紹介します。
これらの検査は、手術計画を立てる上で非常に重要となります。
環軸亜脱臼の治療法
治療法は、症状の重さや年齢などによって、内科的治療と外科的治療に分かれます。
・内科的治療(保存療法)
症状が非常に軽い場合に選択されることがあります。ネックカラー(首輪)で首を固定し、ケージの中で安静にさせながら、痛み止め(消炎鎮痛剤)、ステロイドなどで炎症を抑えます。ただし、これは根本的な解決にはならず、首の不安定さは残ったままなので、再発のリスクが高い治療法です。
・外科的治療
中等度〜重度の症状がある場合や、内科治療で改善しない場合に推奨される、最も根本的な治療法です。手術では、ずれてしまった環椎と軸椎を正常な位置に戻し、特殊なネジやプレート、医療用セメントなどを使って固定します。これにより、脊髄への圧迫を取り除き、首を安定させることができます。手術は非常に繊細で高度な技術を要しますが、成功すれば劇的に症状が改善し、良好な生活を送れるようになる可能性が高まります。
どの治療法を選択するかは、それぞれのメリット・デメリットを獣医師としっかり話し合い、愛犬にとって最善の方法を一緒に決めていきましょう。
環軸亜脱臼の症例報告
今回の症例は1歳10ヶ月のチワワちゃん。かかりつけの動物病院様で痛み止めを出されていましたが、四肢の硬直などがみられ、セカンドオピニオンで当院を受診されました。
レントゲン検査をしたところ、環椎と軸椎のずれが確認されました。普通にレントゲン撮るだけだと異常に気付きづらく、首を曲げて撮影したことで環軸亜脱臼疑いを発見することができました。
確定診断をするために、MRI検査が可能な専門施設をご紹介しました。MRI検査の結果、環軸亜脱臼と診断され、1週間後に専門施設にて手術が行われました。
セカンドオピニオン来院時にはCK(筋肉や心臓、脳神経に多く含まれる酵素で、これらの組織がダメージを受けると血液中に流出するため、その値を測定する血液検査です。)の値が1770と高値でしたが、オペ後は正常値に戻りました。
症状から環軸亜脱臼を疑い、適切にレントゲン検査撮影をし、MRI検査を紹介したことで確定診断及び手術に繋がった症例でした。
飼い主さんにできること・予防法
残念ながら、先天性の要因が大きいため、この病気を完全に予防する方法はありません。しかし、以下の点に気を付けることで、発症や悪化のリスクを減らし、早期発見に繋げることができます。
首に負担をかけない生活を
・首輪ではなく、胴輪(ハーネス)を使用する。
・ソファやベッドなど、高い場所からの飛び降りをさせない(ステップを設置するなどの工夫を)。
・過度な運動や、犬同士の激しいプロレスごっこは避ける。
・抱っこする際は、首がぐらつかないように体全体をしっかり支える。
早期発見が何よりも大切
これが一番重要です。特にリスクの高い小型犬を飼っている場合は、日頃から愛犬の様子をよく観察し、「首を痛がる」「歩き方がおかしい」などのサインを見逃さないようにしましょう。
最後に
愛犬が急に痛がったり、ふらついたりする姿を見るのは、飼い主さんにとって非常につらいことだと思います。環軸亜脱臼は、発見が遅れると重い後遺症が残る可能性のある怖い病気ですが、早期に診断し、適切な治療を行えば、再び元気な生活を取り戻せる可能性は十分にあります。
「いつもと少し様子が違うな?」と感じたら、それは愛犬からの大事なサインかもしれません。どんな些細なことでも構いませんので、迷わず当院にご相談ください。大切なご家族の健康を守るために、私たちが全力でサポートします。
記事作成
エルム動物病院 院長 奥村 滋
一般的な内科診療のほか、簡易な手術から難度の高い整形外科・軟部外科手術までを担当しております。
特に整形外科では滋賀県のみならず、福井県や京都府の動物病院から、依頼・紹介手術を受けて執刀しており、普通の病院では行わない整形外科だけでも、その数は約1900件以上の実績があります。
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