【口が閉じない・よだれ】猫の顎関節脱臼、的確な整復で再発を防ぐ

滋賀県草津市/大津市のエルム動物病院です。
今回は「猫の顎関節脱臼」についてご紹介します。

「愛猫の口が半開きのままで閉じない」
「大量のよだれが出ていて、ごはんも食べられない…」

そのサインは、「顎関節脱臼(がくかんせつだっきゅう)」、つまり顎が外れた状態かもしれません。

猫の顎関節脱臼は、高い所からの落下や喧嘩などが原因で突然起こります。一度はめても、整復が不十分だと何度も繰り返してしまうことがあり、その度に猫ちゃんは痛みと食事がとれないストレスに苦しむことになります。

今回は、そんな猫の顎関節脱臼について、その原因から当院で行っている的確な整復処置まで、お伝えします。

 

顎関節脱臼ってどんな病気?


顎関節は、下顎の骨(下顎骨)と頭の骨(側頭骨)を繋ぐ関節です。この関節のおかげで、猫は口を開けたり閉じたりして、ごはんを食べたり、あくびをしたりすることができます。

顎関節脱臼とは、何らかの強い力が加わることで、この下顎の骨が正常な位置から前方にずれて外れてしまった状態を指します。関節が外れると、強い痛みと共に口を正常に閉じることができなくなります。食事がとれなくなるため、脱水や栄養失調につながることもあり、緊急性の高い状態と言えます。

 

どうして顎関節脱臼になるの?主な原因はこれ!


猫の顎関節脱臼は、主に以下のような原因で発生します。

・外傷(ケガ)

最も多い原因です。

 -交通事故:車との接触で顔を強打する。
 -高所からの落下:ベランダや窓から落ちて顔を打ち付ける。
 -喧嘩:他の猫との喧嘩で顔を噛まれたり、殴られたりする。
 -口を大きく開けすぎる:硬すぎるものを無理に噛もうとする、あくびなど。

 

・歯科処置や麻酔時の開口

非常に稀ですが、歯科処置などで長時間、あるいは過度に口を開けていることが原因となる場合もあります。多くの場合、顔や顎に強い衝撃が加わることが引き金となります。完全室内飼育でも、家具からの落下などで起こる可能性はゼロではありません。

 

こんなサインに気づいて!顎関節脱臼の症状


顎が外れると、非常に分かりやすい特徴的な症状が見られます。

・口が閉じられない
最も代表的な症状です。口が半開き、あるいは大きく開いたままになり、閉じることができません。

・大量のよだれ(流涎)
口が閉じられず、うまく飲み込めないため、よだれが絶えず流れ落ちます。

・食事がとれない
口を動かせず、痛みもあるため、ごはんを食べたり水を飲んだりすることができなくなります。

・顔の変形・痛み
 -顎が左右どちらかにずれて、顔が歪んで見えることがあります。
-顔や口の周りを触られるのを極端に嫌がります。

・元気消失
痛みと食事がとれないストレスから、ぐったりして動かなくなります。

これらの症状は突然現れます。一つでも当てはまる場合は、緊急事態です。すぐに整形外科のできる動物病院を受診してください。

 

診断と検査:正確な診断が治療の鍵!


顎関節脱臼の診断は、主に以下の方法で行います。

・視診・触診
特徴的な症状(口が閉じない、顔の歪みなど)から、獣医師が診察すれば、多くの場合、顎関節脱臼を強く疑うことができます。慎重に顎の動きやずれ方を確認します。

・レントゲン検査
診断を確定するために行います。頭部のレントゲンを撮影し、顎の関節が正常な位置からどれくらい、どちらの方向にずれているかを正確に確認します。また、顎の骨折など、他の重大な損傷がないかを調べる上でも非常に重要です。

 

顎関節脱臼の治療法


顎関節脱臼の治療は、外れた関節を元の正しい位置に戻す「整復」です。

・非観血的整復(手術しない方法)
基本となる治療法です。多くの場合、鎮静や全身麻酔をかけて猫をリラックスさせ、筋肉の緊張を和らげた状態で、獣医師が手を使って顎を元の位置にはめ込みます。

この時、ただはめ込むだけでなく、再脱臼しにくいように「がっちり」と奥までしっかりはめ込むことが非常に重要です。当院では、鉛筆などの棒状のものを奥歯に噛ませ、テコの原理を利用して整復する手法を用いています。これにより、より確実で安定した整復が可能になり、再脱臼のリスクを大幅に減らすことができます。

 

・外科的治療(手術)
整復しても何度も脱臼を繰り返す場合や、骨折を伴う重症例では、手術が必要になることがあります。整復後は、しばらく柔らかい食事を与えるなど、顎に負担をかけないようなケアが必要になります。

 

顎関節脱臼の症例報告


9歳の猫ちゃん。他院にて顎関節脱臼と診断され、一度整復してもらった?ものの「また外れるかもしれない」と言われ、自宅に帰った時に外れていました。もう一度病院に電話すると「家でも簡単にはめられますよ」と言われたとのことでしたが、ご自宅では整復できず、口が開いたままの状態が続き、食事がとれないとのことでセカンドオピニオンで当院に来院されました。

猫顎関節脱臼

診察時、下顎が前方に脱臼し、口が閉じられない状態でした。レントゲン画像を見ても、明らかに顎がずれていることがわかります。

 飼い主様は、繰り返す脱臼に不安を感じておられました。当院では、再発を防ぐために、麻酔下で確実に整復する方針をご提案しました。全身麻酔をかけ、鉛筆を奥歯に噛ませて支点とし、テコの原理を利用して慎重かつ大胆に下顎を元の位置へ整復しました。

猫顎関節脱臼

麻酔から覚めた後、顎の状態は非常に安定しており、すぐにごはんも食べられるようになりました。その後、再脱臼することなく、元気に過ごしてくれています。

 

飼い主さんにできること・予防法


顎関節脱臼は、その多くが不慮の事故によるものです。完全な予防は難しいかもしれませんが、リスクを減らすために以下の点に注意しましょう。

・脱走・転落防止の徹底
これが最も重要です。室内飼育を徹底し、窓やベランダには脱走防止の柵やネットを設置して、高所からの転落事故を防ぎましょう。

・交通事故の防止
交通事故を防止するためには脱走させないことが対策です。万が一に備え、首輪には迷子札や連絡先を必ずつけておきましょう。

・もしもの時は、すぐに病院へ!
顎が外れた状態は、猫にとって非常につらく、時間が経つほど衰弱してしまいます。「口が開いたまま」「よだれが止まらない」などのサインに気づいたら、様子を見ずに、すぐに整形外科のできる動物病院を受診してください。ご自宅で無理に顎をはめようとすることは、無麻酔下ではまず不可能ですし、症状を悪化させる可能性があり危険ですので、絶対におやめください。

 

最後に


愛猫の口が閉じず、苦しそうな姿を見るのは、飼い主さんにとって本当にショックなことだと思います。「一度治してもらったのに、また外れてしまった…」という状況は、さらに不安を大きくさせますよね。

顎関節脱臼は、一度で的確に整復することが、再発を防ぎ、猫ちゃんの苦痛を最小限に抑えるための鍵となります。当院では、一頭一頭の状態を正確に把握し、最も確実で再発リスクの低い整復処置を心がけています。

「もしかして?」と感じたら、どんなことでも構いません。諦める前に、ぜひ当院にご相談ください。大切なご家族が、一日でも早く元の穏やかな生活に戻れるよう、私たちが全力でサポートします。

 

記事作成
エルム動物病院 院長 奥村 滋

一般的な内科診療のほか、簡易な手術から難度の高い整形外科・軟部外科手術までを担当しております。
特に整形外科では滋賀県のみならず、福井県や京都府の動物病院から、依頼・紹介手術を受けて執刀しており、普通の病院では行わない整形外科だけでも、その数は約1900件の実績があります。

 

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