会陰ヘルニア

中高齢以上の去勢手術をしていないオス犬に多発する病気で、男性ホルモンの影響で、骨盤隔膜を形成する肛門挙筋・尾骨筋・外肛門括約筋などが萎縮して、腹腔内容物が会陰部に突出して尿路閉塞をおこしたり、直腸が伸びて憩室形成し、重度の排便困難・便秘などを主訴とします。
特に膀胱・前立腺が突出する状況になったときは緊急疾患であり、早急に手術が必要となります。
以前は、残っている筋肉を縫い合わせるだけ・シリコンやメッシュの人工物を埋没・装着して穴を防いでしまうようなオペが多く行われてきましたが、いずれも再発や異物反応が多く、近年は、あまり推奨されていません。今は、患犬自体の残っている筋肉(坐骨から剥がし起こした内閉鎖筋や大転子から剥離した浅でん筋)、睾丸を包んでいた総鞘膜を坐骨結節近くに引き抜いたものを拡げて縫着し、骨盤隔膜形成に利用する方法を、当院では好んで行い、よい成績を出しております。
このような症例では、肛門が正常より尾側に変位しており、手術のポイントは、隔膜を再建する際に仙結節靭帯を確実に捉えて、肛門を頭側に引き戻してあげることだと考えています。
会陰部に逸脱した膀胱に尿がたまり、還納不可能となっており、当日は針を穿刺して尿を抜き、点滴などで体調を整えて、翌日にはオペを実施。

坐骨結節近くに左右とも総鞘膜を引き抜いて皮下に留め、会陰ヘルニア手術の前準備とし、体勢をうつ伏せジャックナイフポジションに変える。
突出して締め付けられ鬱血し傷んだ膀胱と前立腺。
それらを戻すと、指が2-3本、余裕で腹腔内に入る状態。
腹側からは坐骨から剥がして挙上した内閉鎖筋、背側からは引き抜いた総鞘膜を拡げて、外肛門括約筋・尾骨筋・仙腸結節靭帯などと単線ナイロン糸で縫着し、骨盤隔膜を形成した。
合成単線吸収糸で皮下組織を寄せ、余剰皮膚を切除。皮膚は単線ナイロン糸で単結節縫合。
右も指1本くらいのヘルニア孔だが、総鞘膜を利用できる今回に同時にオペ完了。
術後は、いきみを抑えるための鎮痛処置・大便による感染を防ぐための洗浄管理を徹底。